H25.6.5


トイレの前
磨り硝子越しに
黒い影眺め
その影がゆらめきながら
立ち上がったので
扉を開けようと
ノブを握ったとき
「仕方がない、仕方がないんや」と
なにか言い聞かせるような
つぶやき
隙間から漏れ聞こえ
すこしためらってから
ノブを回し
心なし大げさな身振りで
後片付けを手伝ったあと
おじいさんの右手を握り
扉を開け廊下に出る
「お兄さんおったらええな
お兄さんおらんかったらあかんわ」と
ぼくの手を固く握りながら
きれいな笑顔で
おじいさんが言い終わるその刹那
気づくとぼくは
おじいさんの手を強く振りほどいていた
おじいさんの顔が
笑顔のまま凍り付き
ぼくはあわてて驚きの顔を作る
本当は驚いてなんかいないのに
懸命に作る